【3221】 ○ テリー・ギリアム 「Dr.パルナサスの鏡」 (09年/英・カナダ) (2010/01 ショウゲート) ★★★☆

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ヒース・レジャー亡きあとを3人の代役で繋いだ作品。クリストファー・プラマーらが怪演。

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Dr.パルナサスの鏡 [DVD]
「Dr.パルナサスの鏡」2009.jpg「Dr.パルナサスの鏡」ages.jpg 2007年、ロンドン。1000年生きたと称するパルナサス博士(クリストファー・プラマー)は、下僕の侏儒パーシー(ヴァーン・J・トロイヤー)、若い団員アントン(アンドリュー・ガーフィールド)、そして自分の娘のヴァレンティナ(リリー・コール)の4人で旅を続けながら、鏡の中に客を誘い、人の心の中の欲望の世界を見せるという「パルナサス博士のイマジナリウム」の公演を行っていた。実は、博士は鏡の中でどちらが客を誘惑できるか「Dr.パルナサスの鏡」ko-ru.jpg、悪魔のMr.ニック(トム・ウェイツ)と賭けをしていた。そして、かつて悪魔との賭けにより不死の命を手に入れたパルナサス博士だったが、その代償にヴァレンティーナを16歳の誕生日に悪魔に引き渡さねばならなくなっていた。そんな折、一行は橋の上から吊るされた若者トニー(ヒース・レジャー/ジョニー・デップ/ジュード・ロウ/コリン・ファレル)を救い上げる。助けられた男トニーは一行の仲間になり、商才を発揮して見世物を繁盛させる。だが、悪魔との賭けのタイムリミットは目前に迫っていた。それぞれの思惑が交錯するなか、悪魔と一行は鏡の中の世界でヴァレンティナを巡る駆け引きを繰り広げる―。

「Dr.パルナサスの鏡」cg.jpg シネマブルースタジオの2022年「異世界へようこそ vol.2」特集の1作目。「モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル」('75年/英)など「モンティ・パイソン」シリーズの監督で、自身もコメディグループ「モンティ・パイソン」のメンバーの一人であるテリー・ギリアム監督の2009年公開作。「未来世紀ブラジル」('85年/英)や「フィッシャー・キング」('91年/米)、「12モンキーズ」('95年/米)の監督でもあり、時期ごと、作品ごとに作風が異なるのが興味深いです。本作はまさに異世界を描いたファンタスティックな作品ですが、これに最も近いのは、テリー・ギリアム監督自身の他の作品よりも、CGの使い方などからしてティム・バートンが監督の「チャーリーとチョコレート工場」 ('05年/米)ではないかと思いました。

「Dr.パルナサスの鏡」04.jpg 期せずしてこの映画の見所となった部分があり、それは、この映画の撮影中の2008年1月にトニーを演じるヒース・レジャーが急逝、撮影が中断し一時完成が危ぶまれたものの、彼と親交のあったジョニー・デップ、ジュード・ロウ、コリン・ファレルの3人が別世界にトリップしたトニーを演じて映画が完成したという経緯があって(3人はヒース・レジャーの娘に出演料を寄付しているトム・クルーズも自分から出演を申し込んだが、テリー・ギリアム監督は「ヒースをよく理解している本当の友だちに演じてほしい」と断っている)、トニーが鏡の中に入る度に演じる俳優が変わるという設定になっている点です。

 ヒース・レジャーの出演している最初の方のシーンはそのまま使われていて、それがジョニー・デップ、ジュード・ロウ、コリン・ファレルの順で入れ替わっていきますが、メイクがほぼ同じなので、ぼーっと観ているといつの間にか入れ替わっていたという感じ。最初観た時は、事前の予備知識がないまま観に行ったので、後日、どこで入れ替わっているのか確認のためもう1度観に行きました。

「Dr.パルナサスの鏡」es.jpg 物語の方は終盤、父親が悪魔と取引したことを隠し続けてきたことに怒ったヴァレンティナは、自らの魂を悪魔(ニック)に捧げますが、安易な勝利に幻滅した悪魔は、パルナサスに、トニーを地獄に落とせば娘を返すという別の賭けを持ち掛けます。そして暴徒がトニーを吊るすために近づいてきたとき、吊るされても生き残れる黄金のパイプ(飲み込んで首吊りから喉を防御するという単純な仕掛けだが)をパルナサスは差し出し、その際、ひとつは真の頑丈な黄金のパイプで、もう一つは偽物の脆いパイプを選ばせますが、パルナサスはトニーが間違った選択をすることを望み、実際に、トニーは偽物のパイプを選び、死して地獄に落ちる―。

「Dr.パルナサスの鏡」 図2.jpg 一見アンハッピーエンドに見えますが、エピローグでは、娘を失ったパルナサスがロンドンで物乞いになって身を窶(やつ)していると、ヴァレンティナが偶然に傍を通りかかり、彼は娘がアントンと幸せな結婚生活を送っていて、二人の間に女の子がいることを知ります。かつての下僕である侏儒のパーシーに、ヴァレンティナの新たな生活を邪魔しないよう諭され、声は掛けられないものの、彼は娘の幸せを知ってようやく心の平穏を得ます。博士とパーシーの二人は再び手を組み、街角のおもちゃの劇場を基に事業を始めるようで、悪魔が新しい賭けにパルナサスを誘惑しますが、パーシーがそれを制します(トニーの後日譚は無いのか? 彼の役割は何だったのか?)。

「Dr.パルナサスの鏡」00.jpg「Dr.パルナサスの鏡」05.jpg トニー役のヒース・レジャーら4人とアントン役のアメリカ合衆国生まれのイギリス人俳優アンドリュー・ガーフィールド(彼はこの作品以降の活躍が目覚ましい)は好演していますが、パルナサス博士役のカナダ人俳優クリストファー・プラマー(1929-2021/91歳没、「サウンド・オブ・ミュージック」('65年/米)のトラップ大佐役で知られる)、悪魔のニック役のトム・ウェイツ(元はシンガーソングライターだが、「ダウン・バイ・ロー」('86年/米・西独)など多くの映画に出演)の二人の怪演にちょっと押され気味だったでしょうか。

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アンドリュー・ガーフィールド(上右) in「わたしを離さないで」('10年/英・米)、「ソーシャル・ネットワーク」('10年/米)、「アメイジング・スパイダーマン」('12年/米)、「沈黙 -サイレンス-」('16年/米)
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トム・ウェイツ in「ダウン・バイ・ロー」('86年/米・西独)※右端
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クリストファー・プラマー/リリー・コール
「Dr.パルナサスの鏡」 リリー・コール.jpg「Dr.パルナサスの鏡」●原題:THE IMAGINARIUM OF DOCTOR PARNASSUS●制作年: 2009年●制作国:イギリス・カナダ●監督:テリー・ギリアム●製作:ウィリアム・ヴィンス/エイミー・ギリアム/サミュエル・ハディダ/テリー・ギリアム●脚本:テリー・ギリアム/チャールズ・マッケオン●撮影:ニコラ・ペコリーニ●音楽:マイ「Dr.パルナサスの鏡」アンドリュー・ガーフィールド.jpgケル・ダナ/ジェフ・ダナ●時間:124分●出演:ヒース・レジャー/ジョニー・デップ/ジュード・ロウ/コリン・ファレル/クリストファー・プラマー/トム・ウェイツ/リリー・コール/アンドリュー・ガーフィールド/ヴァーン・J・トロイヤー/ピーター・ストーメア●日本公開:2010/01●配給:ショウゲート●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(22-11-15)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(22-11-21)((評価:★★★☆)

リリー・コールとテリー・ギリアム監督(2010年1月来日時)
「Dr.パルナサスの鏡」リリー・コール.jpg

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